市民ライター企画第2弾のインタビュー編では、浜松のリノベーションまちづくりが進んでいく中で、新たに生まれた『人の輪』に着目し、それぞれの場所でほしい暮らしを実現してリノベーションまちづくりに関わる人々にスポットを当ててインタビューしていきます。
こんにちは、鈴木萌子です。
前回の市民ライター企画では、街中の「まちあるき」を通じて、浜松街中のリノベーション事情をお伝えしました。今回はインタビュー編ということで、みかわや|コトバコで活動をされている村上製本さんにお話をお伺いしました。
みかわや|コトバコは、空き家リノベーションによって生まれた、8業種の複合施設で、前回のまちあるきで1番気になった場所でした。様々な業種の人々が空間をシェアして稼働しています。現在は村上製本さんの他にも英会話教室、食堂、八百屋さん、学生たちによるプログラミング教室などが活動場所として利用しているようです。
浜松へ移住して制作活動をしている村上さん。鴨江アートセンターのレジデンスの先輩でもあり、共通点の多い村上さんを通じて、浜松でのリノベーション施設での活動の現状をお聞きするのを楽しみに、みかわやさんにお伺いしました。
製本家・デザイナーの村上亜沙美さん
村上製本さんのご紹介
村上製本の村上亜沙美さんは、栃木県出身、ロンドンの大学で本づくりを学んだ後、東京のブックデザイン会社に就職しながら、村上製本として個人の本づくり活動をスタート。結婚を機に、2018年に浜松に移住されたそうです。現在は、みかわやに仕事場の拠点をおき、平日の日中はみかわやで作業をしているそう。
まずは、みかわやに関わることになったきっかけをお伺いしました。
市民ライター・絵描き 鈴木萌子
村上さんとみかわやとの出会い
浜松に移住して、鴨江アートセンターのレジデンスに参加した際、浜松の人はものづくりに対する好奇心が強く、製本に対しても興味を持つ人が多いと感じ、レジデンスの後も街の中で仕事できる場所を作りたいと考えたそうです。
ちょうどそのころに人づてで知ったみかわやの片付け。みかわやの管理人の大端さんから、「店を片付けて複数の事業者でシェアしようと思っている」と聞いて、場所を持つとしても真っ白で綺麗な事務所を借りるのではなく古いものを耕すようなやり方で作る場所が合うと感じた村上さん。本の修復をする彼女ならではの感覚だと思いました。たくさんのものが溢れる三河屋をみんなで、時に一人で、それこそ畑を耕すように片付けるところから始まったそうです。片付けを共にした仲間とは徐々に結束が生まれ、時間と手間をかけて作り上げた空間は愛着の持てる場所となったそう。
みかわやの掃除の様子(2020年春)写真・鈴木陽一郎
みかわやの活動を通じて広がるコミュニケーション
繁華街から少し離れた場所にある尾張町の交差点に佇むみかわや。道に面したガラス戸ごしに中の様子がよく見えるので、気になってしまう店構えも手伝って、ふらりと入ってくる人も多いらしい。
隣の歯医者に通っている女性が製本について相談しに来たり、自分で製本したものを持ってきてアドバイスを受けに来る人も来たことがあるそう。浜松には織物や染色の文化があるせいか、自分で作ってみよう!という人が多いと感じる、と村上さん。みかわやを通じて村上さんと尾張町の人々がつながっている様子が伺えました。
また、曜日ごとに出会う顔が変わり、雰囲気もガラリと変わるのも魅力の一つなのだそう。
みかわやのメンバーである河野さん(おやつの紀行)がケーキが焼ける間、製本作業を手伝ってくれたり、森さん(採れたて野菜市)が軒先で近所の方と「こんなふうに食べると美味しいよ」と言葉を交わしながら野菜を販売している様子を見ながら本を作ったり、みかわやの中でも様々なコミュニケーションが生まれているようでした。
他人のペースと自分のペースを大事にして活動しているみかわやの人たちらしい関係性だなと思いました。
みかわやOPEN時の集合写真(2020年冬)写真・みかわや | コトバコ
街に開かれた実験場の可能性
村上製本のこれからについて尋ねると、
「製本教室の常連さんたちがとても上手になってきているので、その方たちが先生となった製本教室を開くのも楽しそうだなと思っています。そして、面白いなと思える本を1冊でも多く作りたいですね。浜松もリノベーションがあちらこちらで行われているので、本にして形に残すことも大切かなと思っています。」
と、今後の期待に満ちた内容と一緒に
「誰かの思い、言葉、プロジェクトを本にすることで、個人の思いが他の人にも触れられるようになるんです。」
という村上さんの言葉が印象的でした。
製本教室の様子をまとめた冊子「街角製本教室」
その言葉には、製本家としての村上さんの活動とみかわや自体のあり方に『共通項』を感じました。出来事を編集し、デザインし、製本してみんなの共有物に生成する、という工程は、空き家を耕し、リノベーションして、みんなの場所に開いていくことにどこか似ているのではないか?と思いました。
街に住む人々、一人一人が持つ技術・技能、それを個々のものにしておくのではなく、社会のものにするために、みかわやのような「開かれた実験場」があることは、とても可能性があるように感じました。
自分の技術を活かせる場があること、他者の技術を受け取る場があること、そして、そこから交換・交流が生まれること。それらはきっと、街での暮らし方を豊かにするきっかけになりそうです。
村上さんにこれからのみかわやはどうなっていくと思うか聞くと、
「誰の場所でもないから、明確にはわからないですね。でもそれが面白くないですか?」とのこと。
誰の場所でもない、街のみんなの場所。みかわやは、これからも様々な人たちを交差させながら育っていく、予感に満ちた場所のように感じました。
市民ライター 鈴木萌子
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