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特集インタビュー
【History】



OPEN時の集合写真(©みかわや | コトバコ)

「ここで、どんなことが始まるの?」しばらく閉じられていた建物のシャッターを上げると近所の方々からこんな声をかけていただく機会が増えたそう。

今回の舞台となる「みかわや | コトバコ」は、かつて浜松市尾張町で商いをしていた「三河屋」の建物と屋号を受け継いだ場所。2018年に行われた『第6回リノベーションスクール@浜松』の取り組みをきっかけに、建物の清掃活動・大規模な改装作業を経て、現在は食堂・製本・野菜市・カフェ・スポーツマネジメント事務所、そして家づくり相談所と異色の組み合わせとなる様々な事業者が入居している。

オープンしてからは、施設内に人がいるのが分かると近所の方がふらっと訪れてお話をすることもだんだんと増えてきたそうだ。広々とした店舗内のスペースではイベントも開催されるようになり、多様な価値観が混ざり合う珍しい複合施設が尾張町に誕生した。

地域との繋がりを通じて
空き家の再生と再利用を試みる


看板の隣にはかつてのタバコ屋さんの小窓

広い交流スペースのある施設内

この活動の中心となったのは、大端将(おおはたしょう)さん。現管理人として「みかわや | コトバコ」を複合店舗として事業者へ貸し出す「家守(やもり)」である。
大端さんが空き家に興味を持ったきっかけは、前職の住宅雑誌の制作に携わっていた頃の違和感だったと振り返る。

大端
「新築住宅をたくさん取材していた一方で、使われなくなった空き家は使われないまま地域に放置されている。そんな現実との隔たりに違和感を持ったことが、今回の活動のきっかけでした。 リノベーションスクールで学んだことでもあるのですが、建物単体でどうにかするのではなくてエリアの価値を向上させることで、はじめて空き家のリノベーションに真剣に向き合うことが出来ると考えています。」

大家さんからの嬉しい提案
仲間とじっくり進めたリノベーション作業


リノベーション浜松での発表資料、当時は北側の母屋は白塗りに

「みかわや | コトバコ」が今の形になるまでは、実に1年半以上の年月が掛かっている。
もともとリノベーションスクールの課題物件は、「みかわや | コトバコ」の建物の隣の建物だった。課題物件の倉庫の片付けを続けていると、大家さんから母屋の利活用の相談を受けたところから現在の建物のリノベーションがスタートした。

2019年5月中旬から母屋の本格的な片付けが始まり、とにかくたくさんの「モノ」を動かすため力仕事になった。建物の修繕は可能な限り自分たちでやるというスタンスで、埃をかぶりながら自分たちで解体も行った。時には隣で活動する学生さんにも頼んで手伝ってもらうこともあったそう。

2019年6月、実に7年ぶりに建物のシャッターがオープン。この時、浜松市役所の佐々木さんの紹介で営業場所を探していた「KIZUKIの食堂」の大村さんの入居が決まり、その後はリノベーションスクールの講師や知り合いをきっかけに入居者が続々と決まっていった。
そして、12月には建物の軒先を使った野菜市が始まり、地域住民の注目を集めた。

大端
「大家さんとはコミュニケーションを続け、進捗の報告も欠かさず伝えていました。製本屋さんのオープンを目標に、それからは毎週集まって片付けをするのが恒例になりました。休憩時間には大村さんがふるまうご飯やお茶をみんなで集まって食べて、また作業をしていると、ほぼ丸1日作業でした。この共同作業がお互いの人となりを深く知る良いきっかけになりました。」

と、当時を振り返る。
目標通り、翌年の2020年8月に製本屋「村上製本」がオープンし、10月には食堂「KIZUKIの食堂」が続けてオープン。11月頃には、珈琲屋「角コーヒー」と洋菓子屋「おやつの紀行」が始まりみかわやが喫茶室にもなった。

食堂・製本・野菜に喫茶室
様々な事業者が交わる場所に


「みかわや | コトバコ」の施設内交流スペース

野菜市では軒先に野菜が並ぶ

施設内には食堂のショップスペースも

このようにして「みかわや | コトバコ」の複合店舗部分は、およそ1年半という長い期間をかけて改装された。知り合いの紹介で仲間がだんだんと集まり、自分たちの場所を自分たちの手で作るためにリノベーション作業をしてきたからだ。
現在は異なるジャンルの7事業者が交わる今までにない場所となっている。[*1]

この場所で食堂を営むのは「KIZUKIの食堂」の大村智子(おおむらともこ)さん。以前は蜆塚でコミュニティカフェ jimicen(じみせん)を運営されていたが、KIZUKIの食堂では、発酵食を取り入れたどこか懐かしい食事を提供している。

毎週金曜日の10時から12時に開催している野菜市を運営しているのは森定次郎(もりさだじろう)さん。地産地消を推進し、地元浜松の農家から直送される野菜果物をみかわやの軒先で販売している。


軒先から見える製本アトリエはオープンな印象

建物にあった浴衣を再利用した装丁

みかわやの歴史を1冊の本に

「みかわや | コトバコ」の角位置で製本業を営んでいるのは、「村上製本」の村上亜沙美(むらかみあさみ)さん。

今のみかわやの場所に製本所ができるまでの建物の変化をまとめたオリジナル写真集を製本したそう。本の装丁は建物にあった浴衣を再利用したもの。みかわやを訪れた際にはぜひ手にとってその手触りと一緒にみかわやの歴史を感じてほしい。

珈琲屋「角コーヒー」の鈴木陽一郎(すずきよういちろう)さんは、『みかわや | コトバコ』の内装デザインを担当した建築家。自ら珈琲屋として出店することでこの場所を臨む。

鈴木陽一郎
「この地域で空き家になってしまった建物は、その後の活用がされないまま残念ながら取り壊されて駐車場になってしまうケースが多いです。 この建物のシャッターが開いたのを最初に見かけたときも、ここもいよいよ取り壊しが始まるのかなと思ったくらいです。それがまさか店舗の内装デザインに関わることになるとは思っても見ませんでした。
珈琲屋「角コーヒー」はコーヒーをきっかけにカフェに入ってもらったり、会話をするきっかけになると嬉しいと思っています。」

尾張町の交差点の街角から
街の情報が行き交う地域スポットに生まれ変わる


みかわや新聞 第一回創刊

現在、みかわやから情報を積極的に発信する試みも行っている。 みかわや周辺の出来事をまとめたフリーペーパー「みかわや新聞」の発行、尾張町の街角の出来事と街のゲストのお話をお届けするラジオ番組「みかわやポッドキャスト」の配信を行っている。

『みかわや | コトバコ』でスポーツマネジメント事務所を営む竹山友陽(たけやまともはる)さんと、文芸大学生の今村理沙子(いまむらりさこ)さんが日々街角の変化や街の情報を見つけ、音声番組として定期的に配信している。

大端
「今でこそたくさんの事業者が交わる場所ですが、開始当初は想像もしていませんでした。『みかわや | コトバコ』という街角が変わることで、そこを行き交う人とのコミュニケーションが生まれ、やがてこの街(エリア)が少しずつ”前向きに”変化していったら嬉しいです。
昨今の空き家問題はとても身近な社会問題の一つですが、みかわやでの活動を通じてこの街の空き家・空き店舗が少しずつ再生されていけばと思います。」

Profile

大端将氏 - Sho Ohata(写真左)

株式会社thinx代表

1985年千葉県船橋市生まれ。
幼少期より浜松で育ち、首都圏の大学に進学したのち、Uターンして就職。営業会社勤務を経て、出版社に転職し、一貫して住宅メディア制作に携わる。家づくり、建築について学ぶなかで現在の住宅業界のあり方に疑問を抱き、2019年独立。現在は、優良な家づくりをしている工務店の広報活動支援のほか、リノベーションスクールで出会った物件の再生にも力を注ぐ。

【みかわや|コトバコ】

場所 静岡県浜松市中区尾張町126-1
ウェブサイト https://mikawaya-kotobako.com/hereis/