「ここで、どんなことが始まるの?」しばらく閉じられていた建物のシャッターを上げると近所の方々からこんな声をかけていただく機会が増えたそう。
今回の舞台となる「みかわや | コトバコ」は、かつて浜松市尾張町で商いをしていた「三河屋」の建物と屋号を受け継いだ場所。2018年に行われた『第6回リノベーションスクール@浜松』の取り組みをきっかけに、建物の清掃活動・大規模な改装作業を経て、現在は食堂・製本・野菜市・カフェ・スポーツマネジメント事務所、そして家づくり相談所と異色の組み合わせとなる様々な事業者が入居している。
オープンしてからは、施設内に人がいるのが分かると近所の方がふらっと訪れてお話をすることもだんだんと増えてきたそうだ。広々とした店舗内のスペースではイベントも開催されるようになり、多様な価値観が混ざり合う珍しい複合施設が尾張町に誕生した。
この活動の中心となったのは、大端将(おおはたしょう)さん。現管理人として「みかわや | コトバコ」を複合店舗として事業者へ貸し出す「家守(やもり)」である。
大端さんが空き家に興味を持ったきっかけは、前職の住宅雑誌の制作に携わっていた頃の違和感だったと振り返る。
「みかわや | コトバコ」が今の形になるまでは、実に1年半以上の年月が掛かっている。
もともとリノベーションスクールの課題物件は、「みかわや | コトバコ」の建物の隣の建物だった。課題物件の倉庫の片付けを続けていると、大家さんから母屋の利活用の相談を受けたところから現在の建物のリノベーションがスタートした。
2019年5月中旬から母屋の本格的な片付けが始まり、とにかくたくさんの「モノ」を動かすため力仕事になった。建物の修繕は可能な限り自分たちでやるというスタンスで、埃をかぶりながら自分たちで解体も行った。時には隣で活動する学生さんにも頼んで手伝ってもらうこともあったそう。
2019年6月、実に7年ぶりに建物のシャッターがオープン。この時、浜松市役所の佐々木さんの紹介で営業場所を探していた「KIZUKIの食堂」の大村さんの入居が決まり、その後はリノベーションスクールの講師や知り合いをきっかけに入居者が続々と決まっていった。
そして、12月には建物の軒先を使った野菜市が始まり、地域住民の注目を集めた。
と、当時を振り返る。
目標通り、翌年の2020年8月に製本屋「村上製本」がオープンし、10月には食堂「KIZUKIの食堂」が続けてオープン。11月頃には、珈琲屋「角コーヒー」と洋菓子屋「おやつの紀行」が始まりみかわやが喫茶室にもなった。
このようにして「みかわや | コトバコ」の複合店舗部分は、およそ1年半という長い期間をかけて改装された。知り合いの紹介で仲間がだんだんと集まり、自分たちの場所を自分たちの手で作るためにリノベーション作業をしてきたからだ。
現在は異なるジャンルの7事業者が交わる今までにない場所となっている。[*1]
この場所で食堂を営むのは「KIZUKIの食堂」の大村智子(おおむらともこ)さん。以前は蜆塚でコミュニティカフェ jimicen(じみせん)を運営されていたが、KIZUKIの食堂では、発酵食を取り入れたどこか懐かしい食事を提供している。
毎週金曜日の10時から12時に開催している野菜市を運営しているのは森定次郎(もりさだじろう)さん。地産地消を推進し、地元浜松の農家から直送される野菜果物をみかわやの軒先で販売している。
「みかわや | コトバコ」の角位置で製本業を営んでいるのは、「村上製本」の村上亜沙美(むらかみあさみ)さん。
今のみかわやの場所に製本所ができるまでの建物の変化をまとめたオリジナル写真集を製本したそう。本の装丁は建物にあった浴衣を再利用したもの。みかわやを訪れた際にはぜひ手にとってその手触りと一緒にみかわやの歴史を感じてほしい。
珈琲屋「角コーヒー」の鈴木陽一郎(すずきよういちろう)さんは、『みかわや | コトバコ』の内装デザインを担当した建築家。自ら珈琲屋として出店することでこの場所を臨む。
現在、みかわやから情報を積極的に発信する試みも行っている。 みかわや周辺の出来事をまとめたフリーペーパー「みかわや新聞」の発行、尾張町の街角の出来事と街のゲストのお話をお届けするラジオ番組「みかわやポッドキャスト」の配信を行っている。
『みかわや | コトバコ』でスポーツマネジメント事務所を営む竹山友陽(たけやまともはる)さんと、文芸大学生の今村理沙子(いまむらりさこ)さんが日々街角の変化や街の情報を見つけ、音声番組として定期的に配信している。
株式会社thinx代表
1985年千葉県船橋市生まれ。
幼少期より浜松で育ち、首都圏の大学に進学したのち、Uターンして就職。営業会社勤務を経て、出版社に転職し、一貫して住宅メディア制作に携わる。家づくり、建築について学ぶなかで現在の住宅業界のあり方に疑問を抱き、2019年独立。現在は、優良な家づくりをしている工務店の広報活動支援のほか、リノベーションスクールで出会った物件の再生にも力を注ぐ。