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【市民ライター企画】浜松まちなかまちあるき(後編)西野咲さん

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私は浜松で育った。
専門学校を卒業後、4年程東京で生活していたが、今年から再び浜松で暮らしている。
都会暮らしは便利だったが、浜松に帰って来るたびに豊かで美しい自然に癒され、人の温かさにも心が安らいだ。しかし、そんな思いと共にどこか物足りなさを感じていた。もう少し活気があればもっといいまちになるのに…といつも思っていた。
そんな時、高校の先輩からこの市民ライターの誘いを受けた。元々リノベーションされた建物を利用したカフェや雑貨店に行くのが好きだった事と、なんとなく面白そうという興味からやってみることにした。

しかし、「リノベーションまちづくりって何だろう…?」と正直思った。
私は浜松出身であるが、2014年からこの取り組みがあることを知らなかった。ホームページやSNSを見てなんとなくのことが分かったものの、実際どんな場所・まちができているのか自分の目で見てみたくなった。

建物を活かすということ。

そもそも「リノベーション」とは何か。元々あるの建物の用途や機能を刷新して向上させたり、新しい価値を創り出す改修の事を指す。似た言葉に「リフォーム」があるが、これは建物を新築の状態に戻す、原状回復の事を指していて全く違うものだ。

三米アトリエ

三米アトリエは昭和30年頃に建てられたものだそう。アトリエに入るとほっと心が和むようなレトロな雰囲気を感じる。店内で使っている机や椅子などの什器も、当時のものをそのまま活かしたという。正面には畳の間があり、その奥に中庭がある。一瞬浜松の中心街にいることを忘れてしまうような空間で、緑に差し込む太陽の光がとても美しい。

窓を開けると自然と風の流れができてとても心地良かった。

「三米アトリエ 店内」
昭和のレトロな雰囲気が心を和ませる店内

三米アトリエ 中庭
緑に太陽の光が差し込み心地よい風が通り抜ける

みかわや|コトバコ

最初に訪れた、みかわや|コトバコでも元々あったたばこ売り場を残してそのまま使っていたり、天井の梁や壁の柱をあえて残してデザイン的に活かしたり、棚の一部として利用したりー。建物を綺麗にするだけではなく、元々持っていた良い部分を残す、新たな価値を創り出して活用するというリノベーションの良さを感じた。

みかわや|コトバコ 外観
昔ながらのたばこ売り場がお洒落なコーヒー屋さんに

みかわや|コトバコ 店内
壁の柱を活かして作られた棚

まちに寄り添う、繋がる。

浜松サザンクロスほしの市の仕掛人の1人、浜松家守舎CONの鈴木さんはリノベーションスクールに最初は渋々参加したそうだ。しかし、スクールでの出会いや発見を基に、1度諦めかけながらもなんとか開催し、今では人気のマーケットになっているほしの市。

サザンクロス商店街 - タケダ毛糸店

鈴木さんのお話によると、サザンクロス商店街でマーケットをやる案は以前にもいくつかあったそうだが、マッチングが上手くいかず実現していなかった。そんな中、鈴木さんは商店街の中の人になって商店街の人たちと係わりを持ちながらまちづくりをしようと考えた。
そこで、市内の別の場所にあった鈴木さんの建築士事務所を商店街の元タケダ毛糸店に移転し、家守舎CONと一緒にやっていくことにしたそうだ。

浜松家守舎CON(一級建築士事務所エルデコール)
外観あえて残された「タケダ毛糸店」の文字に温かみを感じる

サザンクロス商店街に人の流れを作るために始めた「ほしの市」では、出店している人と商店街の人、スタッフなどいろんな人との繋がりが生まれているそうだ。

鈴木さんはこの先10年くらいで3つ4つ商店街のシャッターが開いたらいいなと、優しい眼差しで語ってくれた。ここにはポジティブな意味で大きなゴールがない、まちと人に寄り添う心地よさと温もりがある。

サザンクロス商店街 - 双子座文具店

昨年12月にオープンした双子座文具店は、鈴木さんの想いに共感してできた最初のお店だ。サザンクロス商店街で長年愛されていた文具店をリノベーションして開かれた。お店の扉や壁、商品が並ぶ棚は元々あったものに、店内のayaさんやリノベーションスクールで出会った仲間たちがペンキ塗ったそうだ。
ayaさんは星とシールが大好きとの事。店内には星をモチーフにした文具やさまざまなシールが所狭しと並んでいる。ayaさんの愛が詰まったお店は、いわゆるシャッター商店街にポッと暖かい明かりが点いたかのよう。
このように、1つまた1つと商店街のシャッターが開いていくのが楽しみである。

双子座文具店 外観
サザンクロス商店街に2020年12月オープン


双子座文具店 店内
店主のayaさんが好きな星とシール中心にセレクトされた文具が並ぶ

内側から変わっていくまちづくり。

私はリノベーションまちづくりをとても壮大なプロジェクトのように考えていた。しかしながら、今回の活動を通じて見聞きした経験から、その従来の考えは良い意味で裏切られた気がする。

こんな事したら面白そう…何かやってみたい…!というちょっとした興味が原動力となって人が動き、新しい繋がりが生まれ、まちに広がってさらに繋がりが生まれるー。この、まちと人との本質的な変化が「まちづくり」ではないだろうか。
そして、1歩踏み出すきっかけを生む場所が「リノベーションまちづくり」だと思った。

浜松に帰って来て感じるのはやはり人の温かみだ。最近は減っていると言われる「ご近所付き合い」のような関係も当たり前に存在しているように思う。それは良い事なのだが、元々あるコミュニティの繋がりが強い故に別の場所から来た人を悪気はなくとも余所者扱いしてしまう傾向があるように思う。
逆を言えば、東京は冷たい印象を持たれがちで人やまちの繋がりが薄く感じられる。しかしながら、さまざまな事を受け入れる力に地方の都市よりも長けていて、新しいものが発展して行きやすい環境なのではないだろうか。

何か新しい事を始めるというのは、する側も受け入れる側にとってもとてもエネルギーのいる事だと思う。浜松家守舎CONの鈴木さんのようにまちに寄り添う形で何かを進める事も大切で、まちの人もポジティブな気持ちで協力する事も大切だ。
リノベーションで古い建物を新しい場所に変えたり、定期的にイベントを開催したりする事は活気を取り戻すために必要ではあるものの、表面的な変化では一時的なものになってしまうだろう。
だからこそ、双方の思いやりや尊敬のような気持ちが不可欠だと思う。お互いが無理なく続けられて、そこで生まれる心地良さがまた新たなまちの魅力へと繋がるのではないか。

この先10年、20年後も浜松が心穏やかになれるような温かい魅力溢れるまちである事を願うばかりだ。

 

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