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【市民ライター企画】人口減の進む天竜で「森のマルシェきころ」をオープンさせた理由

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市民の方がリノベーションまちづくりに関わる面白い方にインタビューし、記事を執筆する「市民ライター企画」。2022年度は、2人のライターに3つのテーマで取材・記事を執筆いただきます。

今回は、まちに思い入れがあり、リノベーションまちづくりの合言葉である「ほしい暮らしは自分で作る」を実現するためにアクションをしている方にお話を伺いました。

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今回は、株式会社イケダヤの池田勝臣さんにインタビューを行いました。インタビューでは、「森のマルシェきころ」がオープンするまでの経緯や、「リノベーションまちづくり」に関わり得られたことについて、またなぜこの地域でビジネスをするのか、池田さんの視点からお話いただきました。

〈プロフィール〉
代表取締役 池田勝臣
昭和45年 静岡県天竜市(現浜松市)生まれ。
妻と子供3人の父親。趣味はお祭や釣り、ゴルフ、読書など。
株式会社イケダヤ代表取締役。他関連会社代表も務める。

株式会社イケダヤ
明治40年呉服商として創業。昭和48年 天竜二俣町仲町にスーパーマーケットと日用品を取り扱うショッピングセンターとして「天竜ファミリータウン」を開店。1階食品スーパーの閉店をきっかけに令和3年に解体。同跡地に令和4年 「森のマルシェきころ」開店。
その他、衣類品を取り扱う店が8店舗。経営方針は創業当時から今も変わらず「地域のお客様に愛されるお店」。

生まれも育ちも天竜二俣。過疎地になっていく故郷

私の小学生の頃は1学年に4〜5クラスありましたが、今は天竜二俣地区周辺で1〜2クラス。半分以下となっています。天竜区の奥の方へ行くと、さらに人口減が進み学校の統廃合も進んでいるのが現状。

地域で働く場所が無いことや、進学で県外に出ていき、そのまま戻ってこないという方も多く、人口減が進み中山間地域のいわゆる「過疎地」という状態になっています。

私の小さかった頃の天竜二俣はとっても賑やかな街でした。昔から交通の要所であったり、何でも揃うような場所で、浜北や豊岡などからも買い物客が訪れるような所でした。
商店街には150軒ほどのお店が並んでいましたが、今は30軒ほどに。

以前は歩いて行ける範囲に日用品や食品を購入できる場所がありましたが、お店が減ってしまい、日常で使う物が揃わなくなって困ったという声を耳にするようになりました。

自身の店舗にも人口減の影響

私が運営していた天竜二俣にある、天竜ファミリータウンの1階の食品を扱うスーパーが「これ以上ここで商売をしていくのは難しい」ということで平成30年に閉店してしまいました。地域の方が買い物をする場所がさらに無くなってしまったのです。

次に入居してくれるテナントを探すために30社以上お声がけさせていただきましたが、どこも難しいと言い、1階に入ってくれるところは見つかりませんでした。

家賃の収入が減ってしまったりと、建物の運営自体も厳しくなってしまいました。

天竜ファミリータウン

物を売るだけではなく地域の人々によりそい、コミュニティとなる場であること

スーパーが閉店して1年が経った2019令和元年、天竜ファミリータウンの入口で鮮魚の店頭販売に挑戦してみることに。出店してくれたのは、閉店したスーパーに入っていた魚屋のとし君。

今でも忘れられないのが、店頭販売の初日。宣伝もなにもしていないのにもかかわらず、近所の人たちが噂を聞きつけて、販売開始の前にもかかわらず100人ほどのお客様が待っていました。

レジを手伝っていると、ある1人のお客様から

「おい、社長!あんた、私は刺身1年振りだに」と声をかけられたので、

私が「大袈裟だねえ」と返すと、

「コンビニで買えるものもあるけど、お刺身は買えないんだから、車も無いし」

と、言っていました。

そうか、私たちの世代は車でどこへでも行けて、買い物ができるのが当たり前と思っていましたが、当たり前に買えるものが、買えなくて困っている方が本当にいらっしゃることを知りました。その事に気づいた時、ポーンっと頭を打たれたような感覚に陥りました。商売の根本をあらためて考えるきっかけになった出来事です。

この日はもう1つ気づいた事があって、みなさん顔馴染み同士で集まってすごい楽しそうにおしゃべりしていたんですね。「あ、これ大事だな…」と。

天竜ファミリータウンはクローバー通り商店街の中心地にあるので、人が集まりコミュニティのような場になっていたんだなと。物を売る場所だけではなく、そういう場も提供しなくてはと、あらためて思いました。

何から始めれば?「リノベーションまちづくり」との関わり

1階のスーパーのテナントも決まらない状態だったので、何とかしなければいけないとは 思っていましたが、何から始めて良いか分かりませんでした。いろんな方と話したり、浜松市役所にも相談したところ、空き物件などの利用促進を目的とした「リノベーションまちづくり」という取り組みがあることを教えてもらいました。

偶然にも、「リノベーションまちづくり」のワークショップが天竜で開催されることになり、天竜ファミリータウンを題材に取り上げていただくことになりました。
参加された方から忌憚のない意見や、さまざまな活かし方のヒント、自分とは違う考え方に触れることができました。自分の凝り固まった考えを壊してもらえました。

「リノベーションまちづくり」のワークショップを経て、天竜ファミリータウンの建物をそのまま利用して改装・リノベーションをすることにしました。建築から内装の計画まで立て、計画のゴーサインを出すところまで来ました。

ところが、専門家の方から、建物が50年以上経っていることや、建物が大きすぎるためにリノベーションが困難であることを指摘され、計画は白紙に戻りました。

改装リニューアルをすることを告知してしまった。その後に訂正のチラシも発行した。

建物を建て替える計画に変更

天竜ファミリータウンの建物は取り壊すことに決め、建て替え後の建物は規模を小さくし、コストを抑えられるように計画を練り直しました。
とは言っても、建て替えには大きなお金がかかります。この時に地元のゼネコンの会長さんといろいろとお話したところ、「建ててやる」とその場でオッケーを出してくれました。

浜松市役所の方にも建て替えの計画を再度お話すると、交付金の紹介をしてくださり,
申請にチャレンジしたりして、新しい建物の建築がスタートしました。

2022年2月25日に「森のマルシェきころ」がオープン!

店舗には、店頭販売をやってくれた魚屋のとしをはじめ、農家産直の野菜、地元のお肉、店内のキッチンで作るお惣菜、地場商品を揃えました。

その他、日常でつかう商品は一通り取り扱っています。

 

 


魚コーナーと寿司コーナー。
冷蔵ケースには新鮮な刺身が並んでいる



左:地元の農園から仕入れている野菜 / 右:さまざまな地元産の商品を数多く取り揃えた 上:地元の農園から仕入れている野菜
下:さまざまな地元産の商品を数多く取り揃えた

お酒の取り扱いも12月からスタートし、クラフトビールやお魚に合う日本酒も揃えました。

2階は、キッズスペースとイートインスペースを設けています。

天竜ファミリータウンの入口には2階から1階に向けて設置されたすべり台がありました。1日だけ水が流れるすべり台にしたりと、幼い頃からの思い出がつまったすべり台だったので一部を移設しました。


店舗前に移設された思い出のすべり台

天竜ファミリータウンの前に敷き詰められていた五角形の石畳も一度掘り起こして、並べ直しました。


当時の面影を感じる石畳

店舗の外にも工夫しました。以前の建物は敷地いっぱいに建てられていましたが、国道と商店街に面した立地を活かして、国道152号側からクローバー通り商店街の方へ抜けられるようにしました。

店舗前に設けられた遊歩道。奥にクローバー通り商店街が見える。

実は、クローバー通り商店街の存在を知らない人が多いということに、地元の私は驚きました。商店街では「リノベーションまちづくり」をきっかけに、個性豊かなお店がオープンしています。ぜひ、そちらにも足を運んでほしいと思います。

「森のマルシェきころ」のオープンから1年を振り返って

街がちょっと賑やかになりました。商店街で人が歩いている姿をよく見るようになったのが本当に嬉しい。地元の方からも「本当に助かった」とか「きころのみんなが頑張ってるから、私も頑張るわ」「ここに来ると、元気がもらえるね」なんて声をかけてくださり、逆に力をいただいています。

商店街を歩く観光客

私自身は衣類の販売をずっとやっていましたが、生鮮食品の販売は初めてだったので、全く勝手が違いました。本当に教えていただきながら、助けていただきながらやっています。

地元の方のライフライン的なスーパーとしての役割が大きいのではと思っていましたが、今は観光で訪れる方が増えています。道の駅のような感じですね。

人気があるのは、お魚です。「おいしいね!」という評判をたくさんいただいています。今後は商品にもっと個性を出していこうと考えています。地元のものだったり、珍しいものを今よりも取り扱っていこうと思います。

チャレンジとしては、海鮮などをその場で食べられるようなBBQスペースを作ることも考えています。

盟友の存在と地域の人たちが背中を押してくれた

今回のきころの計画については、「リノベーションまちづくり」に関わっていなければ実現しなかったと思います。もしかしたら、天竜ファミリータウンは別の形になるか、そのままだったかもしれません。

「リノベーションまちづくり」のワークショップに参加した際に出会った人たちとは今でも交流が続いています。アドバイスをもらったり、時々遊びに来てくれたりしています。盟友というような、良い関係でつながっています。

その中のメンバーで、同じクローバー通り商店街でジェラート店をオープンさせた西村さんとは、たくさん意見を交わしました。


西村さんの店とジェラート

ある時には、夕方に誰も歩いて居ない、クローバー通り商店街を二人で眺めて

「これ(きころの計画)、このまま進めて大丈夫かな?」

「いやぁ、人が居ないなぁ〜」

などと話したことも。

一足先に西村さんのジェラート店がオープンして、人がたくさん集まる様子を見て、きころもオープンすれば、もっと面白いだろうなと感じる反面、不安もありましたが、工事も進んでいたので、やるしかないという気持ちでした。

私自身はこの天竜に生まれ、明治時代に1代目が天竜で呉服商として創業し、私は4代目にあたります。地元の方や年配の人たちの期待も大きかった。

買い物に困っているという声を聞いたり、地域の困りごとを目にして、恩返しではないが「この地域と人々が笑顔で元気になってくれたらいいな」という思いが私の原動力となっていました。

浜松市が間に入ることで、地元の人もこれから事業を始める方も安心

「リノベーションまちづくり」では、空き店舗を貸したい人と借りたい人の間に行政が入って、一緒に進めてくれます。市が仲介してくれるということは、元々住んでいる人や不動産の所有者にとって、安心だと思います。

また、事業やお店を始める方も、突然不動産屋さんを訪ねたりするのは、抵抗があるかと思います。そんな時に一緒に行政のサポートがあるのは大きな安心感につながります。

天竜で事業やお店を初めてみたい方へ

今は天竜に新しい店ができたばかりで、目新しさから来てくださっている方も多いと思います。そういう方達をリピーターに繋げていくことが今後の課題です。

そのためには、エリアの魅力をもっと高めていくのが大切だと考えていますが、きころだけの力では難しいです。例えば、物販にとどまらず、観光的な要素であったり。街全体の魅力がでてきて「今日はなんか頭も心も疲れたから天竜へ行こう」なんて言って来てもらえるようになれば、訪れる頻度は変わってくると思います。

そんな街づくりを同じ思いを持ってやっていければ、お互い良い結果が得られるのではと思います。一緒に楽しくできたら嬉しいです!

店舗紹介

森のマルシェきころ
〒431-3314 静岡県浜松市天竜区二俣町二俣1266−1
無料駐車場完備
https://kicoro-morinomarche.jp/


〈市民ライターより〉
冒頭で天竜地区は過疎の街というお話を伺いましたが、池田さんのきころを作った当時の想いを伺ったり、クローバー通りに集まる個性あふれるお店を訪れてみて、このエリアが中心となって地域活性化が広がっていくのでは、と思わせてくれる場所でした。

取材日当日は、きころの駐車場はひっきりなしに車やバイクが出入りしていました。きころの店内もお昼近くなると買い物をするたくさんの人で活気にあふれていました。その様子をにこにことした表情で見つめる池田さんの姿をみて、私も自然と笑顔になってしまいました。今後も注目したいエリアです。

珍しい商品が多く色々とお買い物しました。お魚とお寿司も美味しかった!

市民ライター:こっこ
2児の母をしています。浜松の端っこでのんびりと生活しています。

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