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【市民ライター企画】物件オーナーとして次世代・地域に貢献できること、魅力的な街とは?

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市民の方がリノベーションまちづくりに関わる面白い方にインタビューし、記事を執筆する「市民ライター企画」。2022年度は、2人のライターに3つのテーマで取材・記事を執筆いただきます。
今回は、過去にリノベーションスクールに物件提供をしていただいた物件オーナーさんにお話を伺いました。

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今回は浜松市中区田町にある商業ビル『KJスクエア』オーナーの檀和男さんにインタビューをさせていただきました。檀さんはジャズバーを始めることからスタートし、のちに商業ビルを購入しオーナーになったという経歴をもつ大家さんです。事業家の立場と商業ビルのオーナーとしての想い。両方の面からお話を檀和男さんの視点でお伝えします。

これから事業を始めようという人、物件を貸したい人、どちらの方にも参考となると思いますのでぜひご覧ください。

もっと直接、お客さんと接したいという思いからジャズバーをオープン

2階ハァーミットドルフィンにて。バーカウンターで微笑む檀オーナー

大学卒業後、東京の情報出版会社で働いていましたが、業務の中心はクライアントや制作担当の間に入って橋渡しをする、間接的な“お手伝い”の仕事がメインでした。30を過ぎて帰省することになり、地元の広告会社に6年勤めましたが、これもまた“代理”の仕事。

長年働いているうちに、やっぱり直接お客さんと接する“実感のある”仕事がしたいと思うようになり、自分は何が得意なんだろう?何が出来るのだろう?そんなことを突き詰めて、好きだったジャズを扱うお店を始めようと決めました。

そこで、小さな店舗を借りてレコードやCDが聞けるジャズバー『ハァーミットドルフィン』をオープン。「そんなお店が流行るの?」と周囲には言われましたが、これが人気店となり、順調なスタートを切ることができました。

ハァーミットドルフィン店内にはレコードやCDがびっしりと置かれていました。

ジャズバー立ち上げ後、知人から「空いている場所があるから、バーかレストランをやらないか?」と頼まれて、カフェを運営することになり昼から夜までたくさん働きました。

そんなある時、家賃をかなり払っていることに気づいたんです。この時期は、自身の事務所としてもう1カ所借りていたので、大きな金額でもったいないと感じていました。

自前のライブ会場を持ちたい。商業ビルとの出会い

バーとカフェのスペースでライブを開催していたのですが、やはり場所が小さく手狭だったりと使い勝手が良くなく、自前のライブ会場を持ちたいと考えていた時に、この『KJスクエア』と出会いました。

2階ハァーミットドルフィン店内

他にも何人か買い手がいて自分より資金力のある方もいましたが、縁なのか何なのか、一番お金のない私に売ってくれることに。

ビルは4階建で、すでにテナントが入っている状態でした。2階は空いていましたので、借りていた店舗を閉めてこのビルに引っ越しました。テナントさんからの家賃も入り、自分の事業もできたので収支の面でも安定した経営をすることができました。おかげさまで開業して20年目を迎え、ライブも年間100本程度開催しています。

2階店舗にあるグランドピアノには沢山のサイン

商業ビルを運営してみて思うこと

今は、1F 飲食店、2F店舗・貸しスタジオ、3F 貸しホール(ライブ会場)・貸し事務所、4F 居住用の部屋が2世帯となっています。

3階はウェブ・グラフィック・建築デザイナーの子たちが入居してくれて、かっこよくセルフフルリノベーションして使ってくれています。

現在1階の店舗は空室なのですが、いくつか入居のお話をいただいています。事業内容や業種を聞いていると自分のビルに合うな、合わないな、というのが出てくるようになりました。いつの間にか自分の中でビルのテイストのようなものが出来ていることに改めて気づきました。

1階空き店舗。

やはりビルの古さを生かせるようなテナントや、お金儲けだけではない何か志のある方に入居してもらえれば嬉しいですね。

入居が決まらなければ、時間貸しのキッチンやパーティー会場にしたり、街中のイベントの運営のための場所など地元の方に使ってもらって地域貢献するのもいいかなと思案中です。これも自分で所有しているビルだからこそできること。

1階店舗にて。少しでもキレイになればとセルフで修繕をする檀オーナー

人を惹きつける魅力的な街とは?

浜松には面白い場所はたくさんあるけれど、点在していて1カ所にかたまっていないんですよね。バラバラの点と点で線になっていないんです。

たとえば自分のビルの前の通りに音楽をキーワードとしたお店が集まって、いつも音楽が聞こえてくるようなストリートになって、また別のカルチャーを持ったストリートができて交差していくと、いい意味で雑多で猥雑な雰囲気がでてくる。それが街のにおい、色になってくる。

きれいなショッピングモールでは味わえないような人間らしい街になっていき、人を惹きつける街になっていくと思います。

魅力のある街にしていくには、空き家、空き店舗対策が急務

浜松の街中は空き家問題が深刻な状態です。空き家は”死骸”なんて言われるぐらいインパクトのある存在。空き家は放っておけばどんどん増えていってしまい、最終的には街が死んでしまいます。また空き家には火災や倒壊のリスクも潜んでいることを忘れてはいけません。土地は先祖から預かっている土地でもありますから、周辺地域の方のためにもしっかり運営をする、取り壊すなど対応していってほしいと切に願っています。

空き家問題には行政による対策が欠かせません。空き家条例のようなもので、空き家の活用や処分ができるようになるなど住宅に関しては動きがありますが、店舗に関してはまだまだという印象です。例えば、「北風と太陽」ではないが、空き家を持っていると税金が高くなるといった北風の対策。空き家を貸せば補助※が出るなどの太陽の対策。両方の面から対策していくことが必要だと思います。

 

※浜松市では事業主が利用できる、浜松市空き店舗等利活用事業費補助金があります。
>詳細はこちら

物件オーナーの協力がとっても大切

街中の物件のオーナーさんの中には、貸したいと思っていても先行きが不透明な時代で不安になり、何かやりたい若い人よりも大手のテナントに入居してほしいと考える大家さんもいらっしゃると思います。しかし、大手のテナントでもスクラップアンドビルドでどんどん入れ替わっています。以前は、大手のチェーン店が20年借りてくれることもありましたが、そんな時代は終わってしまいました。

空き店舗が目立つこの浜松の街中の状況を理解していただき、短いスパンでもいいと思うので小さな事業主や若い方達に物件を試しに貸し出してみて、チャンスの場を与えてあげてほしいです。

継続できている成功例や浜松市行政のバックアップで安心

見知らぬ事業主や若い方へ物件を貸すのは、やはり不安があると思います。そういった部分でいえば、この「リノベーションまちづくり」は浜松市行政の方が支援して間に入ってくださるので、安心感があります。

「リノベーションまちづくり」では、ほしの市などの事例があります。それぞれがしっかり自分の好きなことをコンセプトとして継続的に運営しているのが分かるので、見ていただければ不安が減ると思います。

>リノベーションまちづくりin浜松 事例

物件を貸すのはお金のためだけではなく、若い世代との交流・地域貢献

物件を貸したら終わりではなくて、これから何かしようという若い方の成長を見られるのが楽しみ。若い方は、今から何か始めようとしている時には、前向きで、情熱的で、勉強もしていて、とても生き生きしています。

私自身のことを振り返っても、勉強して物件を探している時が一番ワクワクしていました。物件を貸すことで、そういった人たちと接することができるし、感謝されるというのは人生の楽しみになるのではないかと思います。

私のビルの1階店舗は長年使われていたこともあり、退去の原状回復後も汚れが目立つ状態です。新しい店舗が入って物件がリノベーションされキレイになり、例えば小さなテラスがあって、植物が置いてあるような店舗に変われば、近所の人からも「あの辺、急に明るくなったよね、キレイになったよね」と喜んでもらえて嬉しいですよね。

これから街中の物件を借りたいあなたへ

事業計画があってお金があれば良いというわけではありません。物件を提供してくださるオーナーさんへ敬意をもって接することも必要となってきます。

50〜60歳代の自分達より上の年代の方と接するわけですから、約束を守る、きちんとした振る舞いをする、迷惑をかけないなどの相手への心くばりが必要です。

また最初は成果がでなくてあたりまえ。1年足らずで閉店してしまう店も多いと聞きます。何年かは我慢して、3年、5年、7年と続けていくうちに、自分の知らないところから想像以上の評価をもらうこともあります。自分で一生懸命貯めた貯金を使ってやりたいことを始めたのですから、自身のコンセプトを信じて長く続けてほしいです。

店舗紹介

KJスクエア
〒430-0944 静岡県浜松市中区田町326-25 KJスクエア2F
http://www3.tokai.or.jp/hermitdolphin/

  • 2F ハァーミットドルフィン(ジャズバー)
  • 2F KJスタジオ(グランドピアノ・ドラムセットのある練習スタジオ)
  • 3F KJホール(レンタルホール、ライブ・パーティー・レッスンなどに)

貸しスタジオ・ホールは一般の方もレンタル可能。数々のジャズアーティストが使用しているホールが利用できます。また2Fのジャズバー『ハァーミットドルフィン』では薬膳エスニックカレーが隠れた人気メニューで、小麦粉を使っていないのが特徴。バータイムには檀オーナーが自らカクテルを作る。

取材後にカレーをいただきました。スパイシーですがあっさりとしたお味でいくらでも食べられそうでした。

<市民ライターより>

大家さんとして物件を貸すことに対し、お金以外の価値や意味って何だろう?という部分が個人的に大変興味があったので、その部分を深掘りして質問させていただきました。

地域や次世代への暖かい想いを持って大家さんをされていることや、ご自身のやりたいことも実現されたということを聞かせていただき、とても素敵な生き方だなぁと感じました。

私自身は中年と呼ばれる年齢ですが、檀さんのようにカッコよくて、優しくて、さらには他者に貢献できるような大人に少しでも近づけたら…なんて思わずにはいられない、心を打つ取材となりました。

市民ライター:こっこ
2児の母をしています。浜松の端っこでのんびりと生活しています。

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