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特集インタビュー
【History】


異業種と関わり共創することで「自分ゴトが溢れる街」を実現する - 株式会社HACK 共同創業者/株式会社鳥善代表 伊達善隆さん


今年で5回目の開催となる企業版リノベーションスクール。2020年の提案事業で、新川モールの指定管理事業や、街食堂などを手掛ける(株)HACKの共同創業者の一人で、明治元年に創業した株式会社鳥善の6代目代表の伊達善隆さんにインタビューを行いました。

→伊達善隆さんのプロフィール

コロナ渦で会社が変わる転換点の最中に
企業版リノベーションスクールに参加

ーー企業版リノベーションスクールに参加したきっかけを教えて下さい。

伊達

2回目の企業版リノベーションスクール(2020年)に参加させてもらいました。リノベーションスクール自体は個人版の頃から市役所の方に声をかけてもらっていて知っていました。

私達「鳥善」のメイン事業であるレストランやブライダル業界は、そもそも人口減少の時代で先細り感がある業界です。だからこそ「変革」していかなければいけないという危機感はありました。そう思っている矢先に、コロナ渦になってその危機感が10年くらい早まった感じがある中で新たな取り組みをしたいけれど、どうしたらいいかわからない。そんな心境でした。

当時は自分自身に何か明確なアイデアや事業変革の経験もあるわけではなかったので次の一手が手探りな中で参加したのを覚えています。リノベーションスクール以外にもNewsPicks社のローカルプロデュースなどのスクールにも参加していた頃で、とにかくインプットに力を入れていた時期ですね。

この時、会社としてはピンチでしたが、ある意味ではチャンスだと捉えていました。組織が生まれ変わって会社が新しい方向に向かう時に、足を引っ張る要素となるのが「変わりたくない」という組織風土じゃないですか? でも、コロナ渦では変わらざるを得ないという状況を後押ししてくれていて、新しいことにチャレンジするいいタイミングでもあって企業版リノベーションスクールに、会社の代表として参加しました。


第2回企業版の発表の様子

第2回企業版の発表後集合写真

仲間との「価値観」が大事
「何をやりたいか」より「誰とやるか」

伊達

企業版リノベーションスクールのことは知っていたので事前に5つくらいアイデアを持っていって、そのうちの一つが「街食堂」でした。企業版リノベーションスクールで高林さんや鈴三材木店の鈴木さんに出会ってアイデアを聞いてもらいました。

後にこの2人と私でHACKという会社を作ることになるのですが、当時は知り合いでもなんでもなくて。この時、鈴三材木店さんが「ショップボット」という木工用の大きな加工機を持っていることを知っていて、こんな面白い機械を持っている会社は絶対面白い会社だと思って、鈴木さんに声をかけたんです。「ショップボット」持ってますよね?って。


※木工用高性能3次元CNCルータ「ショップボット」
※木工用高性能3次元CNCルータ「ショップボット」
CNC=コンピューターによる自動制御(Computerized Numerical Control)の略称。
ルーター=木材等を加工する電動工具
木工用ルーターをコンピュータ制御によって、正確な位置・深さでかつ高速に加工できる工作機械。

https://shopbot.vuild.co.jp/ より画像引用
伊達

そこからは意気投合して、話はすぐに進み、まちづくりの視察として鎌倉に3人で一緒に行きました。今振り返ると、この一緒に行動する時間がとても大事だったなと思います。それぞれの「かっこいいもの」の感覚や価値観を話ながら確かめていく時間です。組織がうまくいくかどうかの一つの指標として「価値観」が合うかはとても大事だと思っています。感覚的な話ですが、HACKの3人はすごく合っていますね。

こうして「何をやりたいか」よりも先に、「誰とやるか」が決まりました。この時に話していたことで印象に残っているのは、お互いに持っているものをただ組み合わせるような有り体な事業は「自分たちの感覚的に合わない」ということです。それよりも時間を共にして、こういうことを一緒にやりたいという思いやきっかけが先にあったことが、今のHACKに繋がっていると思います。

その後に、ではそれを実現するためにはどうするか?という課題に向き合うことになるわけですが、まずは会社作りましょうと。それから、事業プランの構想作りや最終日の発表に向けてチームで準備を進めていきました。


「なぜ新川モールなのか?」
「そもそも新川モールってどんな場所?」
「新川モールが担える役割」
新川モールに決めた理由とその方向性について書かれた2022年2月当時の公式Note記事

始まりは高架下、新川モールから|株式会社HACK【公式】|浜松市街づくり より引用(画像引用)

ーーということは、最初から新川モールありきのプランではなかったのですか?

伊達

なかったですね。私達はどちらかというと ”まちなか” は違うんじゃない?この時代に中心市街地活性化ってちょっと感覚が違うよねと。地方であれば、中山間地域やいわゆる田舎に本当に面白いものが生まれるし、そうあるべきじゃないかという「価値観」がお互いにありました。

「まちづくり」というと中心市街地が注目されることが多いですが、浜松だけに限らず地方都市は郊外にイオンやららぽーとなどの大型商業施設があり、さらに自然も豊かでそれらにたくさんの人が関わって集まっているのも事実で、これを見て見ぬふりはできないと思うんです。この事実が中心市街地活性化への違和感に繋がっているのかなと思っています。

なので、実は、はじめは郊外や田舎でできないかと思って探していたのですが、実験的な新川モールという場所が誕生することを偶然良いタイミングで聞いてしまって、場所的にもいろんな人が集まる「地力」があり、なにより魅力的だったのが未開拓のフィールドで面白そうだということが決め手となって、最終的に選ばせてもらいました。

始まりは高架下、新川モールから
「自分ゴトがあふれる街を作る」というビジョン




伊達

新川モールを選んだ理由の一つに「自分ゴトがあふれる街を作る」というHACKのビジョンがあります。
私たちは、いつからか、行政やデベロッパーが街を作ると思い込んでしまい、住んでいる人はお金を払って一方的に消費するという街の構図になってしまっていますが、元々は地域住民で井戸がなくて困ったらみんなで井戸を掘ろう、何かなくて困ったらみんなで作ろうとか、そうやって街って自分たちで作っていましたよね。

自分たちも街って変えられるんだって思ったほうが絶対に面白いし、そうあるべきだなという想いがはっきりと根底にあります。なので、利用者の方には新川モールをチャレンジの場として使ってもらって、お客さんの声を直に聞いて、だんだんと手応えや自信が湧いてきてお店を出してみようと。そういうチャレンジする人が増えることが、HACKが考える新川モールの重要な価値の一つです。

まちに関わり「共創」する
異業種とチームを組むことの大切さ

伊達

実は最近、鳥善で大きな発表をしました。インドベジタリアン料理の事業プランを「挑む中小企業プロジェクト2023」で2023年8月に発表して、その後、スズキさんと共同で食キットを開発して先日プレスリリースを出させていただきました。スズキの鈴木俊宏社長と中野浜松市長にご参加いただき取材兼試食会を行いました。

伊達

このような全国的に攻める事業を短期間で手掛けることができたのは、プロジェクトに圧倒的なスピード感があったからこそです。これは元をたどると、リノスクでHACKを創業したことがきっかけにほかなりません。

私達鳥善は飲食やブライダルがメインの会社ですが、事業をピボットしなければいけない時に、アイデアはあるけれど実際に何らかの行動に移すことがとても難しかったのを覚えています。そんな時にまったくバックボーンの違うHACKの高林さん、鈴木さんと一緒に仕事をして、異業種の仕事の仕方を目の当たりにした時に「こんなに仕事が進むのか」と驚きました。なるほど、こういう感じだと進むのかという実体験。つまり、全く違う世界の人からの見え方や考え方がとても勉強になりまして、共に創る「共創」の可能性を大いに感じました。

ーーHACKさんと鳥善さんは別物の事業ですが繫がりがあるんですね

伊達

そうですね、よく色々やっていて大変ですねと言われることもありますが…(笑) HACKの活動で『まちを良くする・浜松を良くする』という取り組みが、当然鳥善としてもブランディングや知名度につながっていますし、なにより「伊達」という人間がこういう人だということも知ってもらえます。それを見込んで何かお仕事を依頼してもらえることもあります。

それと同時に、人脈やネットワーク、経験が蓄積されていくので結果的にHACKにも鳥善にもプラスだと考えています。特に、新しい事業を始めるときにはこのネットワークと経験のおかげでかなり高い位置からスピード感を持ってスタートできると感じています。

これは、リノベーションスクールに参加する理由の一つだと思っていて、自分がちゃんとまちに関わるという接点でもあり、モチベーションの高い仲間を見つけることでもあるのでそういった事も含めて参加してよかったと思っていますね。

ーーHackの事業の一つ「街食堂」についてお聞きします、お昼にSOUでやっていますがコンセプトや狙いは何でしたか?


街食堂 – 地元ならではのメニューを週替わりで楽しめる、浜松で暮らし働く人たちを応援する食堂です。
Instagram: @machishokudo_hamamatsu

SOU (Dexi板屋店 B1F) - 「好き」と出会う場所
伊達

街食堂を浜松でオープンした狙いは、20代・30代の若手に浜松ってこんな面白い人やかっこいい人がいるんだということを知ってほしいということ。進学や就職を機に、知らずに浜松の外に出ていってしまう人も多いので、戻ってきたらこんなにワクワクする人がいるんだなと思ってほしいし、知っていればもっと早くUターンしてきたかもしれないし、そもそも外に出なかったかもしれない。 でも、私もそうだったのですが、知らなかったと。

例えば、大企業の偉い方と20代の若手とはそもそもめったに出会わないですよね。そういう場を浜松にも作りたいというのがきっかけではじめたのが街食堂で、今も実現できているなと思っています。

もともとの街食堂のコンセプトとして、この駅周辺の社員食堂がない中小規模の企業さんが参画する場だと思っていたのですが、会員企業を募った結果大企業や郊外の企業さんも協力してくださいました。現在、会員企業は31社になっています。(2024年1月時点)

そこで企業の方に話を聞いてみると、地域づくりに協力したり新規事業チームと接点を持ったりということに加えて、企業として「認知されたい」という需要があることが分かっています。

無理なくやれそうなアイデアとして企業訪問ツアーの開催などが現実的かなとか考えています。企業同士の垣根を超えて交流する、今だと「越境」というキーワードがありますが、いずれ浜松オールでの取り組みに繋げていけたらいいなと思っています。


街食堂とまちの関わり

街食堂のランチメニュー
伊達

もともとカヤックさんのまちの社員食堂をベースに、ランチの提供を地元のレストランや飲食店をやっている方々に協力いただいています。週替わりでお願いしているので、いろんなレストランを知るきっかけになって、実際にお店に足を運んでもらえたら嬉しいなとも思っています。

お昼の街食堂を展開して、”まちなか”の企業が食堂を共有して同じ場所でご飯を食べる機会を作るというのはとても大事なことの一つですが、それでも長くて1時間、午後も仕事がある中で深くお話をしたりして繋がることって難しいと思うんです。では深く繋がる環境を作るためにはどうしたらいいか?という問いのなかで、「水曜日のヨル喫茶」のアイデアが出てきました。

毎週やるのは、それくらい接点の機会が必要かなと思ったからです。行こうかなと思った時に半年後とかだと嫌ですよね(笑)なので、毎週水曜日の夜に開催することだけ決めてスタートしました。

水曜日の夜に開催している「水ヨル」のコンセプト
1人に届けばその1人の人生を変える


伊達

(1/24現在)「水曜日のヨル喫茶」は今回で35回目になって累計1,000人ほど参加していただいてます。2023年の5月にスタートして以降、「毎週水曜日の夜19:00頃」に開催しています。

一つは、若手活躍の場になっているなと思っていて、「水ヨル」の運営チームは20代メインの様々な企業に務める13名のチームでボランタリーに運営されています。自分としても楽しい・面白いと思ってやっているので共感したメンバーが揃っていて、彼らもまたモデレータにチャレンジしたりと運営メンバー同士切磋琢磨する場になっていてとても雰囲気が良いです。

また、コンスタントに毎週開催するために、運営メンバーと一緒に様々なアイデアを考えて採用しています。

「水ヨル」のコンセプトは酒の肴としてお話をしてもらうこと。実際に、「水ヨル」の紹介でもきちんと書いています。そしてテーマは多様で、立てる人、立ちたい人がいたらその人に話してもらう。どんな人にも人生のストーリーがあるはずで、話してもらうことで「誰か一人にでも届けばその人の人生を少しプラスにすることができる」かもしれないですよね。なので、共感する人が一人でもいれば成立するのが「水ヨル」で、話す人が多くの人に届くヒットコンテンツを持っている必要はないと思っています。

だからこそ、「水ヨル」でリアルで話す、聞くからこそ価値がある場になるし、それが「水ヨル」に行ってみようという動機になってくれているのではないかと思っています。情報がリアル。なので、たまに「水ヨル」にふらっと来た方が「今日誰が喋るの?」って聞いてくれたりもします。

「水ヨル」が浜松と他の地域のキープレイヤーとのブリッジになる

伊達

「水ヨル」を続けてみて分かってきたことが、浜松と他の地域とのブリッジになれていると思っています。例えば、インドの大手企業の代表の方や京都のスタートアップの方が登壇してくれた時は、浜松出張のついでに夜に少しお時間もらって1時間だけ「水ヨル」に来ていただきました。

講演のようなかしこまった雰囲気ではないので、大手の方や有名な方ともすごくライトな形でつながってもらえて、さらに「浜松ってこんなこと毎週やっているんだね」「浜松は熱い人が多いね」と、浜松にポジティブな感想を持って帰ってもらえて。浜松の関係人口を増やすといいますか、ブリッジになっていてとてもいいなと思っています。

浜松出身者でご活躍の方にもとても好意的に捉えていただいて、スタートアップの社長さんや、大手企業の部長さんや支店長さんが浜松に来た時にこの盛り上がりを見たときに「東京で自分の仕事を本業やってるけれど、たまに帰った時に浜松に貢献したい」という気持ちが沸き立つそうです。郷土愛ですね、支店登記して浜松の仕事もしたいなと考え始める方もでてきていますので、ビジネスにおいても人と人を深くつなげることに貢献できているのかなと思っています。

企業版リノベーションスクールの醍醐味は
give & giveの連鎖で面白い事業を「共創」すること

伊達

インタビューの途中で答えてしまいましたが、企業版リノベーションスクールへの参加は、自分がちゃんとまちに関わるという接点でもあり、モチベーションの高い仲間を見つけることでもあるのでそういった事も含めて参加してよかったと思っています。

特に、自分と馴染みがなかったまったく別の分野の人と出会うことで、新たな環境に積極的に参加して「共創」することの良さをぜひ知ってほしいです。

そのためにも、自分は何ができるか(提供できるか)という前向きな give の気持ちをきちんと持っておいて、きちんと伝えることが大切だと思います。同じような志の方と give & give の連鎖で繋がることで面白いことに発展するのは、HACKで証明済みですので(笑)

ぜひこれからも第6回・第7回と企業版リノベーションスクールは毎年開催されていくと思うので、共にチャレンジする仲間が増えてほしいと思います。
文責:鳥居良光

Profile

伊達善隆さん


㈱鳥善、㈱ル・グラン・ミラージュ 代表取締役
㈱HACK 共同創業者

企業版リノベーションスクール2020年参加

1985年浜松市生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、PricewaterhouseCoopers入社。大企業のコンサルティングに携った後、レストラン、ホテルマネジメント会社のベンチャー㈱Plan・Do・Seeに入社。店舗のマネジメントや、老舗料亭旅館の再生などに携わる。2014年にUターンし、㈱鳥善入社、2019年代表取締役就任。『人・街の幸せと可能性に向き合う』を理念に掲げ、浜松のアイコンとなるような店舗づくりに加え、新規事業としてまちづくり事業や、外国人人材の活躍を食からサポートする事業を立ち上げている。そして、2021年に共同創業者として㈱HACKを設立。

会社概要

■株式会社鳥善 概要
1868年(明治元年)創業以来、地域に根付き、飲食事業・ウェディング事業を展開しています。150周年を迎えるにあたり当社ミッションを「訪れる人・ 携わる人が誇りを持てる最高のお店づくりを通じて街の価値を上げ続ける」とし、街の発展と一体化した商品・事業展開を行なっています。
会社名:株式会社鳥善
所在地:静岡県浜松市中区佐鳴台6-8-30
代表者:伊達善隆
設立:1868年(明治元年)創業
URL:https://www.torizen.co.jp/


■株式会社HACK 概要
「自分ゴトがあふれる街をつくる」をコンセプトに、浜松のまちづくりに関する事業を行う会社です。浜松を拠点とする株式会社鈴三材木店、伊達善隆(株式会社鳥善代表取締役)、髙林健太(合同会社アトラス代表)の3者による共同出資にて2021年7月16日に設立。2022年4月より、新川モールの指定管理事業を行っている。
会社名:株式会社HACK
所在地:静岡県浜松市中区佐鳴台6-8-30
代表者:高林健太
https://hack-hamamatsu.com/