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特集インタビュー
【History】


この街のご縁に導かれて、経営者が自社の存在意義を見つめなおせる場所|企業版リノベーションスクール特集3 株式会社デクシィ


2022年10月に第4回の開催を迎えようとしている企業版リノベーションスクール。2021年に開催された第3回企業版リノベーションスクールの提案事業から、「自分の『スキ』を探しに出かけられる地下スペース」がまちなかにオープンしようとしているのをご存知でしょうか?

コロナ禍で借り手が退去してしまった150平方メートルの広いスペースを使い、新たなコミュニティを生み出そうとしているのは、オフィスのデザインや付加価値向上支援を行う株式会社デクシィさん。 代表取締役の杉田策弘さんに、リノベーションスクールに参加したきっかけや感想をお聞きしました。

決め打ちではないからこそ導かれる、物件との不思議な出会い

ーーはじめに、貴社のご紹介をお願いします。

杉田

株式会社デクシィは、もともと私の父が始めたオフィス家具・デザインの会社です。そこから文房具の販売や不動産仲介などへ事業を広げてきました。

その後、2013年に私が代表へ就任したのをきっかけに会社の理念を見直し、事業の方向性を「働くを創る」に統一。オフィスをクリエイティブなモノ・サービスが生まれる場と捉え、物件探しから改装まで、一貫したオフィスソリューションを提供しています。

2012年に運営を始めたシェアオフィスも、今では2店舗になりました。コロナ禍ではテレワークが普及したこともあり、今後も自由な働き方ができるオフィス環境を提供していきたいと考えています。

イノベーティブなアイデアの生まれる街へと浜松が発展していくのを、オフィスの観点からお手伝いできれば嬉しいです。


デクシィの手がけたオフィスデザインの例:リンクウィズ株式会社 引用:デクシィホームページ

ーー企業の働く場作りを行ってきたデクシィ。そんな中、杉田さんが企業版リノベーションスクールに参加したきっかけは何でしたか?

杉田

企業版リノベーションスクールの第1回と第3回に参加しているんですが、実はどちらの回も、やりたい事業が明確にあったわけではありませんでした。どちらかというと、不動産関係の企業さんたちと仲良くなれたらいいな、といった感覚です。

ただ、東区にコワーキングスペース「デクシィ有玉店」をオープンしたのが2012年で、そろそろ2店舗目をまちなかに出したい気持ちはありました。いい物件とのご縁があったらいいな、とうっすら期待はしていましたね。


デクシィ有玉店の様子 引用:デクシィホームページ

ーー杉田さんは2回ともプレーヤーとして参加されていますね。企業版リノベーションスクールでは計5~6日にわたり、事業プランの策定を行います。第1回と第3回、それぞれどのように進めていったか教えてください。

杉田

まず第1回に参加したときは、コワーキングスペースの2店舗目をまちなかに出したい気持ちがあったんですよね。なので、まちなか周辺の空き物件を5件ほど内見させていただきました。でも結局のところ、決め手となる物件とは出会えなくって......。

そんな中、リノベーションスクールのコーディネーターさん(※)が「板屋の餃子店の上が空いていますよ」と言っていたのを、ふと思い出したんです。ちょっと見せてくださいと個人的に頼んで見にいったのが、今、デクシィ板屋店が入居している河合ビルとの最初の出会いです。

※コーディネーター:受講生のアウトプットをサポートするファシリテーターのこと


今回の舞台となる河合ビル、矢印方向には地下1Fへの階段 引用:最終発表資料
杉田

河合ビルは浜松駅から徒歩5分、第一通り駅から徒歩1分という好立地。空きフロアもとても使い勝手がよさそうで、見てすぐに間取りや内装のイメージが頭に思い浮かびました。

話を聞けば、もう20年くらい空いていたそうです。デクシィ板屋店のプランは弊社の事業の一つとして運営し、社員一丸となって進めることになりました。オーナーさんもとても協力的な方でトントン拍子に話が進み、デクシィ板屋店をオープンするに至りました。


2021年3月、念願のデクシィ2店舗目がオープン 引用:デクシィホームページ
杉田

その後、第3回に参加したときは、不動産関係の企業さんたちと交流するのが目的でした。ちょっと出てみようかと軽い気持ちで参加しましたが、そこでまさか運命的な物件との出会いがあったとは......。それが河合ビルのB1階なんです。

ーー第3回の題材は、まさかのデクシィ板屋店の地下になったのですか!地下のスペースも上の階と同様に、以前から長らく空いていたということですか?

杉田

いえ、最初に河合ビルをお借りした2021年当時、地下スペースはイベントの運営者さんが借りていました。その後も貸し出す様子はなかったので、リノベーションスクールの第3回に参加した当初は、僕もB1階のことはまったく意識していませんでした。

そんな中、最初に河合ビルを紹介してくれたコーディネーターの方が、「河合ビルの地下が空いているので、事業プランを考えてみませんか?」と教えてくれたんですよ。実は、コロナ禍で地下スペースの借り手が退去してしまったらしいのです。

「借り手がいなくなってしまったのなら、僕たちで何かやらせていただけないか」と考え、プランを練ってみることにしました。

「何のために地下やるの?」自社の存在意義を問われてからのラストスパート


改装前の河合ビルB1階

ーー企業版リノベーションスクールでは、参加企業のみなさんが思い思いの事業プランを練り、事業プランに合う物件を 探していきますよね。第1回では河合ビルと出会うまでに、どんなアイデアを練っていましたか?

杉田

第1回では、デクシィ有玉店のメンバーさんが、ちょっと仕事しに寄れる小さなまちなかの拠点が持てればいいと思っていました。そのうえで、メンバーさん同士の交流が生まれるように、夜はバーがオープンするコワーキングスペースの案を考えたんです。

ですが、物件を内見してもいい出会いがないまま......。そうこうしているうちに新型コロナウイルスが猛威をふるいだし、とてもバーをやっていられない状況になってしまいました。

それでも、リノベーションスクールでプランを練っていったお陰で、まちなかに拠点を作りたい気持ちは大きくなりました。ついに河合ビルというステキな物件と出会ったことで、今のデクシィ板屋店が実現したんです。

ーーなんだか不思議なご縁ですね! 河合ビルにはバーも併設できる十分なスペースがあると思いますが、デクシィ板屋店でそうしなかった理由は何ですか?

杉田

「働くを創る」の理念に照らし合わせるとちょっと違う、と思ったんですよ。夜は呑めるコワーキングスペースというのはキャッチ―ですけれどね。

コロナ禍でリモートで働く人も少しずつ増えていました。新しい働き方のできる場所が必要なのではないか、と思いはじめたら河合ビルを紹介してもらえた流れです。本当に不思議なご縁ですよね。

ーー自社の経営理念に照らし合わせることで、プランの良し悪しが図れるとは興味深いエピソードです。では、第3回に参加したときは、どのようにプランを練っていったのでしょう?

杉田

第3回では、まず河合ビルの地下スペースが題材になり、そこで何ができるかを考えるのが出発点になりました。おもしろいスペースだからこそ、プランを考え始めたときは自社の理念をすっかり忘れていましたね(笑)。

もともとイベントスペースでしたから、趣味に打ち込めるスペースにしたらおもしろそうだ、と考えたんです。僕自身、趣味でサルサを踊ってきたので、中間発表では「サルサイベントやります!」なんて発表していました。

ですが、いざアウトプットをしてみると、「このプランを会社としてやっていいのだろうか」「社員の賛同を得られるだろうか」と疑問が湧いてきたんです。


第3回企業版の様子

第3回企業版の発表後集合写真

ーープランも最初から完成しているわけではなく、コーディネーターの前で発表するなどを経てだんだん形になっていくのですね。サルサイベントの案を経営理念に照らし合わせると、「ちょっと違う」と。それからどうされたのでしょうか?

杉田

最終発表まで残すところ約1カ月しかありません。その間、怒涛のプランの練りなおしとなりました(笑)。

僕たちの理念が「働くを創る」なので、河合ビルの地下スペースも働く人が幸せになれる場所にできたらいいな、と。お客さま層から見直して、お客さま目線に立ってみて、プランを考えなおしました。

コワーキングスペースや会議室は、浜松にもたくさんできました。ただ、そうした施設の利用者は、経営者や起業家、フリーランスといった事業者さんたちがメイン。一般企業に勤めている人たちが、気軽に仕事しに行ける場所はまだ少ない気がします。

実は、弊社のスタッフもリモートワークで働いているのですが、「いつも使っているコワーキングスペース以外には、怖くて行けない」と言います。すでに出来上がっているコミュニティには、きっかけがない限り飛び込めないのだそうです。

であれば、コワーキングスペースの一歩手前となるような場所を、河合ビルの地下スペースに創ってみよう。一般企業にお勤めの方でも行けるような、職場と家庭以外の“第3のコミュニティ”をまちなかに実現したいーーそう思うようになったんですよね。




最終発表では、「Knot(結び目)」がコンセプトとなった。

ーー経営理念に立ち返ってからのプランは、当初のものと説得力が違いますね......!最終的にはどのようなプランになりましたか?

杉田

自分の「スキ」を探しに集まれる地下スペースをコンセプトにしました。最近決まった名前は「SOU(ソウ)」です。

浜松の産業の繊維(SEW:読み方「ソウ」)や、自動車産業の「走」、楽器産業の「奏」、創造性の「創」、想いの「想」、そして、種まきの「SOW(読み方:ソウ)」などから想起しました。多目的スペースとして貸しだし、さまざまなイベントを開催していこうと思います。


杉田さん Facebook より

思えばいまや趣味となったサルサも、僕が人生ではじめて熱中できたことでした。それまで仕事の意義を深く考えることもなく、サルサをはじめた当時は家業もうまくいっていなかった。そんな悩みも、サルサに熱中している間は忘れられたんです。サルサのイベント企画や集客に励むうちに、仕事にも主体的に取り組めるようになりました。僕はサルサに救われたんです。

熱中できることがある人は、仕事や人生に生き生きと取り組める人だと思います。地下スペース「SOU」が、浜松のみんなが人生のおもしろさを発見できる場所になったらいいな。来てくれた人にとってかけがえないコミュニティになってくれたら、と思っています。


地下スペースから1階に上がる階段

企業版リノベーションスクールは“経営者の弱点”にも向き合える場所

ーーオフィス創りに関する多彩なサービスメニューをお持ちのデクシィさんが、まさか企業版リノベーションスクールで経営理念を試されていたとは驚きました。

杉田

そう言っていただき恐縮です。というのも、事業を自社で完結してしまうのが、僕は自分の弱点だと思って悩んでいたからです。巻き込み力が弱いんですよね。

リノベーションスクールでプランを発表してみても、「良いプランですね。やってみたら?」という評価で終わってしまう……。ほかの事業者さんからの協力を得られないのは、自分の力の無さだと引け目に感じていました。

そうした反省から、地下スペース「SOU」では、おもしろいことにいろいろチャレンジしてみようと思っています。賃貸借契約を結んだのは2022年の5月ですが、それ以来、事業はせずに7月も8月も改装をゆっくり進めているだけ。

場づくりも、お客さま層と同世代のスタッフに任せたところ、みんな自主的にコンセプト設計や企画を進めてくれています。「SOU」がどんな場になるか、今からとても楽しみです。


河合ビルB1階、2022年7月現在の様子

ーーそれはとても勇気のいる決断だったと思います。気になるのは収益面なのですが......こちらはどのように考えていらっしゃいますか?

杉田

実は収益面はそんなに心配していません。というのも、内装はいくらでもやり方があって、DIYできる部分もたくさんあるからです。それよりも、自分たちが地域やお客さんにどんな価値を与えられるかの方が大事だと気付いたんです。

自社のやるべきことを明確にできたことが、リノベーションスクールに出て一番よかったことだと思っています。その中で、自分の弱みとも真剣に向き合えました。本当に貴重な機会となったので、参加させてもらえて感謝の気持ちでいっぱいです。

ウェブサイト ※「スキ」が見つかるまちなかの地下スペース「SOU」の最新情報は、公式ホームページほか、下記の各種SNSからご確認いただけます。
Instagram:@sou_hamamatsu
Facebook:https://www.facebook.com/souhamamatsu/
Twitter:@hamamatsu_sou

いいプロジェクトは自然と走りはじめる、自社事業をワンランク高めてくれる企業版リノベーションスクール


社員とお客さまと地域とともに歩む

ーー少しいじわるな質問かもしれませんが、素朴な疑問としてお聞きしたいと思います。企業版リノベーションスクールのような場でなければ、企業理念について深く考える機会は少ないのでしょうか......?

杉田

杉田:たしかに、どの企業の経営者も、自社の理念については日々考えていると思います。そんな中でも、1つの物件をお借りすることは、大きなターニングポイントになり得るということです。とくにリノベーションスクールでは、オーナーさんが困っている物件と向き合いますから、自社の理念や存在意義をより深く考えます。日ごろ事業を運営しているのとは、一味違う頭の使い方ができるんですよね。

サルサイベントの企画に対する周りの反応がイマイチだったのは、社会的な意義が弱かったからです。空き家・空き物件の課題は、浜松にとっての社会課題。だからこそ、リノベーションスクール発の事業には、必然的に社会的な意義が求められるのだと思います。社会的意義のあるプランでなければ共感を得られないことに、リノベーションスクールの場で発表させてもらったから気付けました。


ーーそうだったんですね、とても勉強になります。では今後、第4回、第5回への参加もあり得るでしょうか?

杉田

はい、あると思います! 経営理念を深く考えるきっかけになりましたし、素敵な物件と出会うと事業プランが湧いてきますから。素敵なご縁を求めて、リノベーションスクールの第4回や第5回にも、ご縁があれば出てみたいと思います。

ーーありがとうございます。では最後に、企業版リノベーションスクールへの参加を考えていらっしゃる企業さまに向けて、メッセージをお願いします!

杉田

これから社会的意義のある事業をしていきたいと考えている方や、自社の理念に立ち返る機会のほしい方は、リノベーションスクールに出てみることをぜひオススメします。思ってもみない運命的な物件と出会える可能性がありますし、そのご縁をきっかけに自社事業をワンランク高めることにもつながっていくと思うので。

「世の中に向けていいことをやっていきたいと思っている企業さんは、出てみるといいことがありますよ」というのが、僕からのメッセージです。

Profile

杉田策弘さん


オフィスデザインから不動産仲介、シェアオフィス/コワーキングスペースの運営まで、企業の“働く”を支える株式会社デクシィの代表取締役。大学を卒業後、東京のオフィス家具販売企業に就職。5年後に浜松へ戻り、デクシィ(旧:株式会社エージェーンシースギタ)へ入社。2013年より現職。 浜松市における働き方やオフィスづくりについて考察したnoteが人気。