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特集インタビュー
【History】


※この記事は、2018年3月に作成しました。

浜松初の女性家守会社
「(株)浜松家守舎CON」ができるまで。


サザンクロス商店街

浜松駅南口から3分ほど歩いた場所にある[浜松サザンクロス商店街]。浜松唯一のアーケード商店街でありながら、今はシャッターが閉まった店舗が増え、人通りもまばらな通りになっている。

そんな商店街で2017年11月に開催された『浜松サザンクロスほしの市vol.0』。いつもは通りの向こうまで見通しのいい100mほどのアーケードが、この日ばかりは人の頭でいっぱいになった。仕掛けたのは、建築士の鈴木友美子さん率いる女性ばかりのメンバー。2018年春からの定期開催に向け、1月に仲間と『(株)浜松家守舎CON』を設立した。浜松市が2014年から取り組んでいたリノベーションまちづくりで初めて誕生した女性だけの家守会社だ。


サザンクロスほしの市 vol.0

きっかけは、
イヤイヤ参加したリノベーションスクール。

鈴木さんがサザンクロス商店街と向き合うきっかけとなったのが、2017年2月に開催された『第4回リノベーションスクール@浜松』。リノベーションスクールとは、実際にまちなかにある空き物件や空間を使ってまちづくり事業を学び、実践する場。今、日本各地で展開されている地方再生の手法だ。『一級建築士事務所エルデコール』の代表でもある鈴木さん。長年、建築に携わる仕事をしていたこともあり、知人に誘われてスクールへの参加を決めた。以前からまちづくりに興味があり、意気込んで参加したのかと思いきや、実際は正反対。前日まで憂鬱で仕方がなかったそうだ。

鈴木
「人見知りだし、こういう場所はホントに苦手で。一度は参加を決めたものの、当日の朝まで行きたくないと思っていました(笑)」。

一級建築士事務所エルデコールの代表、鈴木さん

リノベーションスクールの様子

浜松の魅力が伝わる定期マーケットで
エリアのファンを作る!


ヒアリングの様子

若干後ろ向きな気持ちで参加した鈴木さんが、スクールで偶然担当した物件がサザンクロス商店街にある『元タケダ毛糸店』。チームの担当講師だった都市計画家の加藤寛之さんとサブ講師として参加していた島津順子さんとともに、物件だけでなくエリア全体の未来を考えた事業プランを練っていった。《どうやったらまちの期待値を上げてエリアのファンを増やすことができるのか?》3日間で地道なヒアリングと調査を重ねた。

鈴木
「チーム内でもサザンクロス商店街のある駅南エリアは寂しくて何もないというイメージを持つ人が多くて。でも、周辺エリアを見回せば区画整理で住宅が増え、人口も増加していました。歩いて数分の場所にはこだわりを感じる人気店がいくつもあり、ファンはすぐ近くまで来ていることに気づいたんです」。

こうした調査結果に加え、全国で活躍する講師の加藤さんが定期マーケットによってエリアを再生してきた話を聞き、「人の流れがまだないところに店を出すのではなく、定期マーケットでまちの期待値を上げて人の流れを作ったら、お店も自然と増えていくはず…!」とチームの考えがまとまっていく。

エリアの価値を上げるマネジメント会社(家守会社)を立ち上げ、クオリティにこだわったマーケットを毎月運営していく事業プランはここから生まれた。そのとき名づけた家守会社の名前が『CON(コン)』。サザンクロス商店街の中央にある砂山稲荷にちなんで、商店街や砂山エリアへの敬意をこめて名前をつけた。

「可能性しかない!」
このエリアや事業に対して、チームメンバー全員がそう思っていた。


サザンクロス商店街内にある
砂山稲荷

リノベーションスクールの様子

一度はあきらめかけた
『浜松サザンクロスほしの市』。

リノベーションスクール終了後、熱い想いを胸にメンバーはすぐ動き出す。平日の夜に何度も集まり、いつからマーケットを始めるか、どういう組織にするかなど話し合いを重ねた。しかし、9人いるメンバーは年齢も職業もバラバラ。学生、主婦、会社員、自営業など生活スタイルもさまざまだった。だんだんと全員の日程を合わせるのが難しくなり、みんなの意見を気にするあまり話がまとまらないまま時間だけが経過。本業や家事、育児に追われ、少しずつ連絡が途絶えていった。

狐の神様が導いてくれた!?
岐阜県・千代保稲荷の月並祭。

島津
「もう、やらないならやらないと、物件オーナーさんや商店街の人にも伝えないといけないと思って…」。

子供服を企画販売する
『maku』代表、島津さん

そう話すのはリノベーションスクールに講師として参加していた子供服の企画販売を行う『maku』の島津順子さん。島津さんもこの事業を形にしたい思いはありながらも1人でやるのは難しいと判断。半分諦めたような気持ちで鈴木さんに「やる?やめる?」と意思確認の連絡をする。

すると、「私はやりたい。今の事務所をサザンクロスに引っ越してでもやりたいと思っています」と熱いメッセージが! 島津さんと同じように諦めかけていた鈴木さんだったが、島津さんからの連絡が入る数日前にサザンクロス商店街への想いが再燃。きっかけは、偶然訪れた岐阜県・千代保稲荷の『月並祭』だった。

鈴木

岐阜県・千代保稲荷の『月並祭』
「たまたま商工会議所の仲間に誘われて岐阜県にある『おちょぼ稲荷(千代保稲荷・月並祭の通称)』へ行ったんです。昔ながらの商店街が平日の夜とは思えないほどの人で溢れていて。それに、商店街の人も屋台のお店もお客さんも顔なじみな会話が飛び交い、みんなすごく楽しそうで。商店街の中にお稲荷さんがある風景が私の中でサザンクロス商店街とリンクして、《サザンクロスがこんな風になっていく姿をまちの中から見てみたい!》とワクワクが止まらなくなりました」。

浜松家守育成トレーニングと
ほしの市vol.0を経て会社設立へ


サザンクロスほしの市 vol.0 出店者集合写真

鈴木さんの熱い想いに共感した女性メンバーたち。リノベーションスクールの別チームに参加していた女性数名にも声をかけ、11月にほしの市vol.0を開催することを決める。しかし、残された準備時間は2カ月ほど。イベントの多い時期でもあったため、出店者集めに苦戦を強いられる。エリアの価値が上がるマーケットにするためには、公募ではなく魅力的な出店者をスカウトしていくしかない。そんなときに役立ったのがA4用紙1枚にまとめられた『ほしの市』の理念。「子どもたちに、誇れるまちに」という想いに賛同した人たちが魅力的な出店者をたくさん紹介してくれ、最終的には30店舗近い店舗が集まった。


サザンクロスほしの市
vol.0 の様子

イベント当日は朝から多くの女性客や家族連れでにぎわい、商店街の通りの向こうまで人でいっぱいに。失敗や改善点もたくさんあったそうだが、メンバー全員ができない理由よりできる方法を精一杯探しながら成功へと導いた。


サザンクロスほしの市 vol.0 の様子

家守育成トレーニングで気づいた
「なんのために?」という想い


浜松家守育成トレーニングの様子

家守会社設立に向けて背中を押したのが、2017年10月に鈴木さんが島津さんなど中心メンバーと参加した『浜松家守育成トレーニング』。馬場正尊さん、嶋田洋平さん、瀬川翠さんの3人の講師に定期マーケットの運営で不安に感じている点を相談。家守会社としてエリアマネジメントしていくうえで重要なことなども具体的にアドバイスを受けた。そして、「何のためにやるのか」という自分たちの想いを再認識し、続けていくためにも会社にしようと法人化を決意する。

鈴木
「まちのため? 商店街のみなさんのため? そう言えたらカッコイイのかもしれないけど、やっぱり一番は自分のためなんです。この商店街に少しずつでもお店が増え、まちが変わっていく様子を見てみたいっていう自分の欲求だと気づきました。でも、それが結果的に誰かの夢やチャレンジを応援するきっかけになればと思っています」

と鈴木さん。2018年1月に「株式会社浜松家守舎CON」を設立。代表取締役には鈴木さんが、取締役には島津さんが就任した。


サザンクロス商店街
元タケダ毛糸店

社名にCONを残したのも、リノベーションスクールで出会った仲間たちの想いを引き継いでいきたいという気持ちから。その後、サザンクロス商店街の方々の後押しもあり、スクールの対象物件だった元タケダ毛糸店を借りられることが決定。鈴木さんの設計事務所兼家守会社の事務所として2018年春から動き始める。

夢を応援する
まちのマーケットを目指して。

今後、2018年4月から毎月第2日曜日に『浜松サザンクロスほしの市』を開催。マーケットに出店している複数店舗の商品をまとめて包装できるラッピングブースの設置のほか、各出店者のオススメの本を紹介する《私の本棚》など、繋がりが生まれる仕掛けを複数企画する。ギフト包装には地元の若手クリエイターが描き下ろした作品を使い、夢を応援するマーケットを目指す。


わたしの本棚

アートかけ紙プロジェクト

ほしの市事前説明会の様子

新しい働き方をテーマにしたトークイベントや、サザンクロス商店街を中心とした超ローカルメディアの運営など家守会社としての活動も幅広く展開していく予定だ。

『ほしの市』の理念の最後はこう締めくくられていた。


「一度出て行った人がまた帰ってきたくなる、このまちに住んでいることを自慢したくなる、そんなまちを、一緒につくりませんか? 未来の子どもたちに、誇れるまちを。」

浜松がそんなまちになったら…想像するとワクワクしませんか?

『浜松サザンクロスほしの市』は、
さらに盛り上がる場所へ。

2022年3月追記

2018年4月から始まった『ほしの市』は、現在、毎月第2日曜日に開催されており、多くの人々が集まるマルシェに成長しています。
私達の生活に彩りを与えてくれるような、魅力あふれるこのマルシェにぜひ注目してください。そして、お出かけの際は出店者の方々やスタッフの方々から、お話を伺ってみてはいかがでしょうか。

【浜松サザンクロスほしの市】
場所 浜松サザンクロス商店街(砂山銀座商店街)
開催日 2018年4月~毎月第2日曜日
開催時間 10:00~15:00(季節によって変動あり)
問い合わせ先 hamamatsu.hoshinoichi@gmail.com
ウェブサイト http://hoshinoichi.com/

(株)浜松家守舎CONが誕生した3つのポイント

(株)浜松家守舎CONが誕生したポイント1

覚悟を決めた1人の想い

1人だけじゃなにもできないけれど、最初の1人がいないと始まらないのも確か。鈴木さんの覚悟を決めた想いが周りに伝染し、一緒に会社を作る仲間や協力者たちが増えていった。

(株)浜松家守舎CONが誕生したポイント2

顔を見て話をすることを大切に

直接顔を見て会話することを大切にしている鈴木さん。サザンクロス商店街にも何度も足を運ぶうちに、最初は警戒していた商店街の人たちも心を開いてくれるように。今年から『元タケダ毛糸店』を貸してもらえることになったのも、商店街のみなさんのおかげと鈴木さんは話す。

(株)浜松家守舎CONが誕生したポイント3

くだらないことで笑い合える仲間と一緒に

「会話の8割はくだらないことで笑っています」と話す鈴木さんと島津さん。ほしの市も浜松家守舎CONの活動も楽しくて仕方ないんだそうだ。真剣に、でも、おもしろがりながら。そんな仲間と出会えたからスムーズに会社が誕生したのかもしれない。

// PROFILE


鈴木友美子(写真右)

浜松市出身。『一級建築士事務所エルデコール』代表。戸建住宅を中心に建築とインテリアを設計。

リノベーションまちづくりを自分ゴトにする第一歩!
自分の想いが固まっていなくても小さなきっかけ作りのためにスクールに参加するのもいいと思います。多くの人と出会い経験や考えを聞くことで自分の目指すものが見えてくるかも。

島津順子(写真左)

徳島県出身。子供服ブランド『maku』代表。元タウン誌編集長でライターとしても活動中。2児の母。

リノベーションまちづくりを自分ゴトにする第一歩!
リノベーションまちづくりとは『今あるものを新しい使い方をして町を変えていくこと』。その視点で見回せば、自分にもできることがある気がしますよ。

【(株)浜松家守舎CON】
https://www.facebook.com/hamamatsuyamorishacon/